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千葉地方裁判所佐倉支部 昭和48年(ヒ)1号 決定 1974年3月11日

申請人 浅井義一

代理人弁護士 柏原晃一

同 清水直

同 清水建夫

同 松島英機

同 浜田俊男

同 能登文雄

被申請人 株式会社船橋カントリー倶楽部

代表者代表取締役 鈴木武

同 浅井義一

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

(申請の趣旨)

「昭和三四年九月一一日から昭和四七年一二月三一日までの被申請人の業務及び財産状況を調査させるため検査役を選任する」との裁判を求める。

(申請の理由)

第一、申請人と被申請人との関係

1  被申請人は昭和三四年九月一一日設立されたゴルフ場の建設経営等を目的とし、発行する株式の総数四万株、一株の金額五〇〇円、発行済株式総数一万株、資本の額五〇〇万円の株式会社である。

2  申請人は被申請人設立の際五〇〇万円を出資して全株式一万株を取得し、かつ、現にこれを所有している。また、申請人は鈴木武とともに被申請人の代表取締役であり、商法二六一条二項の共同代表の関係にある。

3  ところで、被申請人の設立のためには手続上七人以上の発起人と一人以上の株式申込人が必要であったので、設立当時の株主名簿には株主として、鈴木武五〇〇〇株、申請人、中山清、島一郎、丸山只己、三輪武、鈴木栄、深野儀一、寺田元一、浜田勝信、三浦義一各五〇〇株と記載された。

4  申請人が全額出資して被申請人を設立したのは玉野仙(当時協和銀行秋葉原支店長代理)から「鈴木武が国際ゴルフセンターという名称でゴルフ場の建設を計画し、土地買収等に着手したが、資金、信用に乏しく、計画が挫折したので援助してほしい」旨懇願されたからである。また、申請人はゴルフ場の建設と経営を円滑に進めて行くのに名目上鈴木を表面に立てて行く方が良いと考え、株主の名義を鈴木の申出るまま前記3のようにしたうえ、鈴木を代表取締役とし、申請人は島、中山、丸山、三輪とともに取締役となり、三浦を監査役とした。

5  その後申請人が協和銀行から約一億円の資金を調達してこれを被申請人に貸付けた結果、ゴルフ場用地の買収、造成が順調に進み、ゴルフ場は昭和三六年一一月に仮オープンし、昭和三七年四月に本オープンした。被申請人は昭和三六年九月その商号を現在のものに変更した。ところが、鈴木の独断、横暴な振舞いが目につくようになったので、申請人は昭和三六年三月鈴木と共同で代表取締役に就任し、取締役であった中山、丸山、三輪の退任に伴い、浅井礼三、玉野仙を取締役に就任させ、監査役も三浦から飯島三四郎に替えた。

6  その役員の異動に伴って、新役員が名義株主になった方がよいだろうということになり、昭和三八年一一月一日付で株主名簿上の株主の名義を、鈴木武二五〇〇株、申請人二五〇〇株(鈴木武のものから)、飯島一〇〇〇株(申請人と浜田のものから)、島一〇〇〇株(三浦のものを加えた)、玉野一〇〇〇株(鈴木栄と三輪のものから)、長竹達三一〇〇〇株(丸山と中山のものから、これは後に申請人名義となった)、浅井礼三一〇〇〇株(深野と寺田のものから)と書替えた。なお、前同様申請人以外の者はいわゆる名義株主にすぎず、実質的な株主ではない。

第二、被申請人の代表取締役鈴木武の不正行為等

1  鈴木武は被申請人の業務執行に関して次のような不正行為を行った。すなわち、鈴木は被申請人から適当な使用目的をつけて仮払形式で金員を持出し、これを自己のために着服費消したうえ、その辻褄を合わせるため後日他から領収証を入手し、あたかも被申請人のために支出したかのように装って清算したことが度々あった。例えば次のとおりである。

(一) 鈴木は昭和四五年八月三一日ファッションセンター「ふそう」発行の領収証四通金額合計五万三九一〇円を持参して、(1)、一万五〇九〇円は船橋ゴルフ会世話人会並びに職員三名の中元進物代、(2)、一万四二一〇円は市役所道路係一四名分の中元進物代、(3)、一万四五九〇円は特殊学校藤原学園園児五〇名の中元進物代、(4)、一万〇〇二〇円は市役所秘書課職員一〇名分進物代として鈴木に対する仮払金の清算をした。しかし、右領収証四通は右の各進物とは関係のないものであった。

(二) 鈴木は昭和四七年三月二四日山本隆幸顧問弁護士と打合せのための食事代として三万〇三四三円の仮払金の清算をしたが、その際提出された伝票の中に伊豆山の「桃李境」発行の三月一八日(土)の宿泊代一万九八五三円の領収証があった。しかし、鈴木はその日に「桃李境」に宿泊することが不可能であった。

(三) 鈴木は東魁楼本町店(船橋市所在)発行の昭和四六年三月一六日付の四万四三三〇円の領収書を持参して、渡辺船橋市長の歓迎会のため支出したものとして同額の仮払金の清算をしたが、同店では三月一六日にそのようなパーティを催していなかった。

(四) 鈴木は東京ライオンズクラブ発行の昭和四六年九月九日付領収証(四万一〇〇〇円)、昭和四七年一月二七日付領収証(五〇〇〇円)、同年三月二三日付領収証(九五〇〇円)、同年四月一三日付領収証(四万一〇〇〇円)をもって同額の仮払金の清算をしたが、ライオンズクラブは鈴木個人の資格で加入しているのであって、被申請人とは関係がない。

(五) 鈴木は昭和四七年一月三日付の国際自動車株式会社発行の領収証(四万五八〇〇円)をもって同月一日から五日までの五日間都内一円の年始回り予約割引料金との名目で仮払金の清算をしたが、その領収証の宛名、内訳、金額の各欄の記載はその発行会社が記入したものではない。

(六) 鈴木は妻鈴木栄が昭和四七年六月二九日にニュー銀座千疋屋で買物をして受領した六七〇〇円の領収証の宛名栄を武と変造し、その上に被申請人のゴム印を押捺して、あたかも被申請人の御中元のために支出したかのように装って同額の仮払金の清算をした。

2  鈴木は自分の役員報酬のみを取締役会の決議も得ずに独断で大幅に、しかも、時期を遡及して増額し、その増額分をもって仮払金を清算した。これは商法二六九条及び被申請人定款二一条の趣旨に反するものである。

(一) すなわち、被申請人の役員の報酬月額は昭和四七年四月末日当時、代表取締役社長鈴木三四万円、代表取締役申請人五万円、取締役浅井礼三五万円、同玉野二〇万円、監査役飯島五万円であった。なお、昭和四六年一月死亡した専務取締役島は二七万円であった。

(二) ところが、鈴木は昭和四七年九月一三日取締役会の決議を経ることなく、独断で自己の報酬のみを月額七五万円に増額し、しかも、これを同年四月分に遡及させた。更に、鈴木は夏期賞与という名目で被申請人から八四万円を取得した。そして、鈴木はこの四月から八月までの増額分と夏期賞与の合計二八九万円から所得税一一五万二六一〇円を控除した一七三万七三九〇円について、第一三決算期(昭和四六年九月一日から昭和四七年八月三一日まで)中に増加した仮払未清算金一三二万七四二三円と相殺処理したのち、その残額四〇万九九六七円を自己の手中に入れた。他方、鈴木は取締役玉野の報酬を昭和四七年五月から月額五万円に減額した。

(三) 被申請人の定款二一条は取締役及び監査役の報酬は株主総会で決めると規定しているが、その株主総会では役員報酬の総額のみを定めており、個々の取締役、監査役に対する配分額までは定めていなかった。このような場合には、その配分額の決定は取締役会に委ねられたものと解すべきである。仮にそうでなく、代表取締役がその配分を決めることができるとしても、鈴木は申請人と共同代表なのであるから、申請人の同意、承認なくして勝手に自己の報酬を増額することはできない。申請人は鈴木のなしたその増額の決定について同意していなかった。

第三、以上のとおり、被申請人には法律及び定款に違反する重大な事実があるから、その業務及び財産の状況を調査させるため検査役の選任を請求する。

(資料)≪省略≫

(判断)

一件記録によると次の事実を認めることができる(なお、この点について申請人は疎明で足りると主張しているが、証明を要するとするのが通説である)。すなわち、被申請人は昭和三四年九月一一日旧商号を京葉観光開発株式会社と称して設立され、昭和三六年九月二一日これを現商号の株式会社船橋カントリー倶楽部に変更して同年一〇月一二日その変更登記を経由した。被申請人は設立当初本店を東京都目黒区平町五八番地に置き、目的を「ゴルフ場の経営並びにゴルフ倶楽部の経営管理」等とし、代表取締役に鈴木武が、取締役に申請人、中山清、島一郎、丸山只己、三輪武が、監査役に三浦義一がそれぞれ就任し、発行する株式の総数を四万株、一株の金額を五〇〇円、発行済株式の総数を一万株、資本額を五〇〇万円としていた。玉野仙が昭和三五年一月取締役に就任し、三浦が同年三月辞任して飯島三四郎が同年七月監査役に就任した。申請人が昭和三六年三月三〇日代表取締役に就任した(同年四月二八日登記)。被申請人は同年九月二一日商号を変更すると同時にその目的を「ゴルフ場の建設経営並びにゴルフクラブの経営管理」等に変更し、丸山が同年一〇月辞任して長竹達三と浅井礼三が同月取締役に就任し、昭和三七年七月一五日その本店を印旛郡白井村字清戸七〇三番地に移転した(同月二六日登記)。申請人が代表取締役に就任したのち暫らく経ってから鈴木と申請人が共同して会社を代表するようになった。昭和四五年一〇月二九日鈴木と申請人が各代表取締役に、島、玉野、浅井礼三が各取締役に、飯島が監査役にそれぞれ重任し、鈴木と申請人が共同して会社を代表することになった(同年一一月二一日登記)。飯島が昭和四六年一〇月二八日監査役を重任し、取締役島が昭和四七年一月一五日死亡した。そののち被申請人は取締役と監査役の選任決議をしていない。被申請人はその営業年度を年一期、毎年九月一日から翌年八月三一日までと定め、その末日に決算を行うと定めている。被申請人の株主総会は昭和四六年八月三一日までの被申請人の決算を承認してきた。被申請人においては株主名簿上各取締役と監査役の全員がいくつかの株式を取得しているものと記載され、その名義上の株主が株主総会に出席してその議決権を行使してきた。昭和四七年一〇月に招集されるべきであった被申請人の定時株主総会は事情によって招集されなかった。以上の事実である。

ところで、申請人は被申請人の株式一万株の全部を実質的に所有していると主張し、その審尋においてもそれに符合する供述をしている。これに反し、鈴木武はその審尋において被申請人の実質上の株主は申請人が五〇〇〇株の株主で、鈴木武が五〇〇〇株の株主であると供述している。しかし、その信用性の有無について判断しなくても、その両名の供述を総合すると申請人が形式上においても三五〇〇株を下らない株式を所有している事実を認めることができる。また、申請人の提出した資料のうちには申請人の主張する申請の理由第二の1の(一)ないし(六)の事実及び第二の2の(一)ないし(三)の事実に符合する証拠がある。

そこで、申請人は商法二九四条一項に基づいて被申請人の業務及び財産の状況を調査させるため検査役の選任を請求すると主張する。ところで、その条項によるいわゆる少数株主権による検査役選任請求については「株主が会社の実情を積極的に調査する方法としては、まず、株主の帳簿閲覧権による調査があるが、これは会計の範囲に限られ、しかも帳簿および書類による調査に止まる。現実には、さらに進んで直接に会社の業務および財産の状況をも調査することを要する場合がある。この要求に即応するものが、本条による株主の検査権である」(注釈会社法)と解されている。したがって、その制度の趣旨は会社の業務の執行に関与しない株主の保護を図るためのものであって、株主の会社経営に対する監督、是正を図るための手段の一つであるとみることができる。そうすると、被申請人の代表取締役であって、かつ、その主張に従えば被申請人の株式の全部を所有しているという申請人にこの検査役選任請求権を認めるのは相当でない。それはその選任請求権を認める必要性がないというよりは、むしろその選任請求権を取得しえないというべきであろう。

また、前記認定のように申請人は鈴木と共同して被申請人を代表する者であり、被申請人の株主総会は設立時の昭和三四年九月一一日から昭和四六年八月三一日までの被申請人の決算を承認してきた。そして、申請人は審尋において「島一郎が死亡して間もなくのころから鈴木武との間に事件が起こりました」と供述しており、さらに、≪証拠省略≫によると申請人は昭和四七年二月一〇日東京地方検察庁検察官から東京地方裁判所に対して「申請人飯島三四郎、玉野仙と共謀し、または単独で、昭和四五年一月二九日ころから昭和四六年四月二三日ころまでの間に二九回にわたり難波寿義ほか二二名から被申請人に対する会員預託金として合計五七〇〇万円を受取り、これを被申請人のため業務上保管中、これを着服して横領した」旨の公訴事実で公訴を提起され、昭和四八年三月一五日同裁判所でその罪により懲役二年、三年間執行猶予の判決の言渡を受け、これに対して控訴を申立て、現に審理中である事実を認めることができる。そこで、これらの事実に照らして考えると、仮に申請人に検査役選任請求権があるとみるのが相当であるとしても、申請人が現時点に至って被申請人の業務及び財産の状況を調査させるため検査役の選任を請求するというのは、その選任請求権を濫用するものとみるのが相当である。なぜなら、申請人は鈴木武とともに共同代表取締役として相互にその代表権の行使を牽制し合い、その代表権の行使の濫用を防止し得る立場にあるのであって、ほぼ一二年間にわたって被申請人の決算を承認してきたこともあり、さらに、その五七〇〇万円に及ぶ業務上横領行為をなしたとすれば既にみずからの手を汚しているからである。

以上のとおり、申請人の本件申請は不適法であるからこれを却下し、申請費用を申請人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 加藤一隆)

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